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フランス料理の洗練された感覚をとり入れて、じつに繊細でエレガントな料理を食べさせてくれる。
サービスもとてもよく気がつく。
妙な言いかただが、「ジラルデ」のような料理に「夕イユヴァン」のようなサービス、といったところ。
「ミシュラン」のニツ星。
銀座ソニービルに入っている「サバティーニ」の本店が、スタツィオーネ(駅)の近くにある。
「ミシュラン」では星なしだが、スパゲッティーアリオーオリオ、にんにくと唐辛子とオリーヴオイルだけのスパゲッティは、わたしの知るところイタリア随一である。
貧乏人のスパゲッティカとか”絶望のスパゲッティ”ともアダ名される単純極まりないパスタだが、これがかえってむずかしい。
この店のは、三者の絶妙のバランスのなかに、スパゲッティがりりしく立っている。
「ミシュラン」に載ってすらいないが、フィレンツェでのわたしの第一のお気に入りは、「トラットリアーパスキーニ」。
“トラットリア”というのは、レストランに対するビストロのようなもので、簡素な食堂を意味する。
ポンテーヴェッキオを背にして、レプブリカ広場へ向かって歩きだすと、そのちょうど半ばあたり左手に、屋台というか露店がいくつも出ているメルカート(市場)が見えてくる。
そのメルカートの奥の細道に「パスキーニ」はある。
昼めしどき、あちこちの店を覗きながら品定めをし、それで見つけた一軒だが、ぶらりと入ってこれはどの大当たりは、わたしの経験でも他にほとんどない。
あとで、ガイドをめくってみたが、「ミシュラン」にも「エスプレッソ」にも「ヴェロネリ」にもどこにもでていない。
ご近所のみご用達の食堂である。
テーブルから見える厨房、というより台所は、細身で小柄のお母さんがとりしきる。
それを手伝うのが、息子とおぼしき若い料理人だが、お婿さんかもしれない。
サービスにはお父さんとかわいいシニョーラが当たってはいるか、お父さんは陽気なだけで、ほとんど役立たずである。
この店では、オリーヴのスパゲッティーニを食べてみること。
スパゲッティよりひとまわり細いスパゲッティーニがグリーンのオリーヴとまことにいい相性を見せる。
茄で加減は完璧である。
ラヴィオリ、タリアテッレなど他のパスタもいい。
主菜は、断然、ビステカーアラーフィオレンティーナにしよう。
骨つきのビフテキで、注文のたびに冷蔵庫から大きな肉の塊を出しては切って焼き上げる。
ただ焼いただけ、添えてあるレモンをちょっぴり搾っていただく。
ふたりでなら四百グラムの肉がペロリと入ってしまう。
パスタと肉を食べ、赤ワインのキャラフをとっても、ひと皿につき二千円でおつりがくる。
ただし、食後のコーヒー、エスプレッソがない。
だから、食後はシニョリーア広場へ出て、キャフェでエスプレッソをいただく。
なんとも気持のよいフィレンツェの午後である。
毎年十二月になると、出来ることならミラノへ出かけたいと思う。
ミラノースカラ座の新しいシーズンがはじまるからである。
毎年十二月七日、ミラノの守護神サンタンブロージオの生誕の日に幕を開ける。
わたしはまだそのオープユングの晩に、スカラ座でオペラを見たことはないが、その晩はオアフの殿堂が一段と華やぐという。
なにしろ、普段は宝石店のショーウィンドウでしか見たことのないような首飾りや指輪が、幕間のロビーでぞろぞろと動いているというのだから、さぞや豪華絢爛を絵にかいたような光景なのだろう。
初日の晩はこのように特別の日ゆえ、観光客はおるか一般のミラノっ子も、なかなかチケットが手に入らない。
なにせ、いつもなら二万五千円の最上席が十万円にもなってしまうのだ。
そのために、初日の晩の公演はテレビ中継されることになっている。
初日の幕が開けば、オペラの殿堂といえども、通常の、ヨーロッパの冬を過ごす、大人のための娯楽施設となるから、わたしたち観光客もその仲間入りが出来るようになる。
そのオペラ見物のために、ミラノを訪れたとき問題になるのが、ホテルである。
ミラノには街を代表するような優れた超一級のホテルがない、いまやこれが定説になってしまっている。
誰もがまず第一に指を折る「プリンチペーディーサヴォイア」にしても、その「プリンチペ」と同じ広場に面している「パレス」にしても、また中央駅横の「エクセルシオールーガリア」にしても、超一級とするにはやや物足りない。
確かに、玄関を入ったロビーは歴史を感じさせ、格式があって豪華なのだけれども、客室の内装・什器がとても簡素なのである。
だから、パリの「R」や「C」に泊まったあとミラノへ飛んできて、これらのホテルに泊まると、おやっと思ったりする。
わたしが泊まったなかでは、「ピエールーミラノ」がよかった。
繁華街から離れた場所にあって、買物などにはやや不便を感じるが、ホテルが街に溶けこんでいるので、その分、ホテルはいつでも静かである。
構えも内装も、超一級とはいえず、また、ミラノに居るという雰囲気にも欠ける点はあるが、客室数は五十室ほどでサービスはキメ細かく。
居心地は極めてよい。
ただし、値段は「プリンチペーディーサヴォイア」と変わらない。
わたしにとって、このホテルが都合がよいと思うことがもうひとつある。
ミラノでわたしの最もお気に入りの店「アルポルト」まで五、六百メートル。
歩いて十分とかからない距離にあるためだ。
ミラノはイタリア有数の美食の都で、優れたレストランの数はイタリアーを誇るのではなかろうか。
「ミシュラン」の三ツ星である「グァルティエローマルケージ」を筆頭にキラ星の数ほどあるといってよい。
その「マルケージ」は、「ミシュラン」がフランス料理店以外ではじめて三ツ星をつけた店だが、いちどは出かけてみる値打ちはあるものの、店の名物料理である。
キャヴィアの冷たいスパゲッティ”やゴフヴィオリーアペルト”は、通いつめて食べたいという料理ではない。
スパゲッティというのは、熟々のうちに食べるのが原則で、冷たいスパゲッティというのはありえなかったのだが、マルケージが日本へやってきて。
もりそば”にヒントを得たらしい。
キャヴィアは熱いものの中へ加えると魚くさい臭いを発するから、料理に使うのはとても危険だが、冷たいものには問題がない。
誰かがやってみると「なあ~んだ」ということになるが、淡い灰色と淡い黄色の配色によるシンプルなスパゲッティは、贅沢極まりない。
ラヴィオリというのも、本来は包んであるものを指し、“アペルト”(開いた)というのはなかった。
言ってみれば、ギョーザの皮みたいなもので、何も包みこまず、その代わりその皮に本の芽のような葉を打ち込んである。
だからパスタの皮に葉の緑が透けて、これが非常に美しく、食欲をそそるのだ。
マルケージという料理人は、発想の転換によって新しいイタリア料理を生み出している人である。
そうした料理、イタリアでは〈ヌオーヴァークッチーナ〉と呼ばれているのだが、それに比べると「アルポルト」の料理は、昔ながらのものばかり。
店名から察しがつくように、ミラノにおりながら魚介専門店で、店はポルダージェノヴァ駅に近く、この辺りを流れる運河の端に立つ堂々たる一軒家である。
わたしがこの店へやってくると、必ず食べたくなるものが。
あさりのスパゲッティ”と。
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